これらの資料は昨年(2011年)に総合機構が実施した「GCP研修会」の資料です。
(参考資料)平成23年度GCP研修会資料
●新医薬品の適合性書面調査及びGCP実地調査について
●治験を実施する医療機関における留意点
●今週は治験を実施する医療機関における留意点を見ていきましょう。
まず、誤解を生まないためにも次の言葉を噛みしめてください。
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●治験実施医療機関に対する総合機構の実地調査とは・・・・・・
GCP第2条第10項に規定される原資料から、治験が、被験者の人権、安全、福祉の向上を図り、治験実施計画書を遵守して実施され、科学的な質と成績の信頼性が確保されているかを検証します。
形式的な照合や間違い探しではありません。
●実地調査の時の総合機構の担当官の主な視点
▼被験者の人権等への配慮がされていたか
▼有効性や安全性の評価に影響を及ぼす事例の有無
(例)
・治験の実施に十分な設備、人員を有しているか
・緊急時に被験者に必要な措置を講ずることができるか
・治験審査委員会の運営状況
・同意の取得方法は適切か
・原資料等の記録の保存体制
・治験実施計画書に従い実施されているか
・治験実施計画書からの逸脱を認識し、再発防止がされているか
・原資料に記載された有害事象等が症例報告書に記載されているか
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●ここでホーライの見解を示すと、GCP違反でデータ削除を求められる例として間違いないのが、「原資料の紛失」だ。
これは、よくよく考えればあたりまえだけど、そもそも原資料が無かったら、そのCRFのデータの信頼性が担保されない。
そうなると、当然、解析データから削除しないといけなくなる。
だから、病院の引っ越しなどで紛失しないようにお願いする必要があるし、さらに医療法などで決められた以上の期間、原資料を保存しておいてもらうようにお願いしよう。
●あとは、同意に関する項目だね。
同意違反があったら、まずは、これまたデータ削除を求められる。
●ちなみに、2008年に総合機構は医療機関に対して188件の実地調査を行い、改善すべき事項を通知した医療機関は76施設に登っている。
さらに、2008年に総合機構が要求してきた改善すべき事項を見ると、以下のようになる。
●総数が134件
●内訳
*治験実施計画書関係・・・54件
*症例報告書関係・・・22件
*治験審査委員会関係・・・13件
*記録保存関係・・・9件
*その他・・・36件
上記を見ると、IRB関係が意外と(と言うか)、多いことがわかる。
なので、モニターの皆さん、IRB事務局の皆さん、注意しましょうね。
特に「迅速審査」のあり方に注意してください。(後述)
以下に詳しく見ていこう。
●実施医療機関への改善すべき事項の内訳(治験実施体制)
*治験審査委員会関係・・・13件(48%)
*治験薬の管理体制・・・5件(19%)
*業務の委託・・・9件(33%)
となる。
●IRB絡みで言うと・・・・
・手順書に従った審議の不備(第28条第2項):7件
・審議方法の不備(第32条第2項(第3項)):5件
・継審査の不備(第31第2項):1件
・・・・・・・となる。
●●●● 治験審査委員会(IRB)に関する改善すべき事例(指摘事例) ●●●●
治験期間が1年を超える場合の治験継続の適否の審査(年1回以上)について、IRBは審査していなかった、あるいは迅速審査により審査していた。
治験実施計画書の変更や安全性情報に関する情報を受けて説明文書が改訂されたが、これについてIRBは迅速審査により審査していた。
治験依頼者から通知された安全性情報について、IRBは治験を継続して行うことの適否について審査していなかった、あるいは迅速審査で審査していた。
治験協力者がIRB委員として審議・採決に参加しており、当該委員を除くと出席員数がIRBの成立要件を満たしていなかった。
IRBの会議の記録が審議結果のみの記載であり議事要旨が記載されていなかった。
●↑を見ると分かるけれど、「迅速審査」関係に指摘が多いよね。
「IRBの迅速審査」は、あくまでも事務的で軽微は変更のときの審査方法であって、有害事象等を検討するときのやり方ではない、ということを覚えておこう。(と言うか、覚えてもらおう!)
●なお、治験審査委員会の会議の記録を保存しておく義務が医療機関にはあり、そこには 審議の結論(承認、不承認等)だけでなく、審議及び採決に参加した委員名簿及び議事要旨が記載されていることが要求されている。
●●●● 治験薬の管理に関する総合機構からの指摘事例 ●●●●
盲検期に誤って非盲検期の治験薬を交付した。
被験薬を交付すべきところ、誤って対照薬を交付した。
処方箋(あるいは治験薬)に記載された割付番号と異なる番号の治験薬を交付した。
治験薬と誤って同一成分の市販薬を投与した。
回収した使用済みの治験薬(バイアル)を誤って再度交付し、投与した。
割り付けられた割付番号の治験薬が被験者に投与されたことを示す記録を作成していなかった。
僕が経験した事例を述べると・・・・・
●1つの施設で長期投与試験と二重盲検試験を同時走にらせていたところ、長期投与の患者さんに二重盲検のほうの治験薬を渡した。その逆もある。
●そもそも、割り付けが間違っていた。
●卵巣がん用に交付した抗がん剤が胃がん用に使われてしまった。
●ある病院でフェーズ2をやっていた時に治験薬が1個、行方不明になり、その後のフェーズ3のときにひょっこり見つかり、それをフェーズ3の患者さんに投与されていた。
・・・・・・とまぁ、僕の経験からだけでも、いろんなタイプのミスがあった。
だから、モニターの皆さん、CRCの皆さん、治験薬管理者の皆さん、注意しましょうね。
最終的に頼りになるのは「確認者の目視」です。
PCシステムを使っているからと言って、油断しないように!
●●●● 業務の委託(GCP第39条の2)に関する事例と留意事項 ●●●●
治験施設支援機関(SMO)との業務委受託契約書にGCP第39条の2第2号から第6号に係る事項の記載がなかった。
治験の実施に係る業務の一部(○○検査)を他の医療機関に委託していたが、業務委受託契約書にGCP第39条の2第2号から第6号に係る事項の記載がなかった。
●治験事務局の皆さん、外部のSMOや検査機関を使う場合は契約書をしっかりと見ましょうね。
●契約書に記載すべき事項がGCP省令にありますので、そこをじっくりとご覧ください(第39条の2)。
●●●● 実施医療機関への改善すべき事項の内訳(個別症例) ●●●●
●治験実施計画書からの逸脱・・・43件(40%)
*投与規定不遵守、併用禁止薬使用、治験実施計画書規定項目の未実施等
●症例報告書・・・22件(21%)
*症例報告書への記載不備、(検査結果・有害事象・併用薬)
●被験者の同意・・・20件(19%)
*同意取得の不備(第50条)、再同意の未取得(第54条)等
●被験者の選定・・・11件(10%)
*選択・除外基準不遵守等
●記録の保存・・・9件(8%)
*保存不備(診療録検査報告書等)
●その他・・・2件(2%)
・・・・・・・と言うように、とにかく治験実施計画書からの逸脱が多いので注意が必要だ。
モニターの皆さん、CRCのみなさん、治験責任医師・治験分担医師と一緒に解決していきましょう。
知らなかったでは済まされません。
●●●● 治験実施計画書からの逸脱に関する事例 ●●●●
中止基準の判定のために定期的に定められた心電図検査が一部の時期に実施されていなかった。
臨床所見スコアが中止基準に達しているにもかかわらず、試験が継続されていた。
○○の検査結果により治験薬の投与量の増減が規定されているにもかかわらず、遵守されていなかった。
休薬期から再投与に移行するための条件を満たしていないにもかかわらず、再投与に移行されていた。
主要評価項目である観察項目が一部の時期に実施されていなかった。
主要評価を実施するためのCT撮影が一定の撮影条件(スライス厚等)で実施されていなかった。
●上記の他にも、治験実施計画書からの逸脱は様々なものがあります。
その中には医師やCRCに対するモニターの説明不足ということもありえます。
煩がられるぐらい、医師やCRCに治験実施計画書について関係者に説明しておきましょう。
●●●● 被験者の選定に関する事例 ●●●●
・スクリーニング検査の結果が選択基準を満たしていなかった。
・除外基準に規定された併用禁止薬の投与及びWash-out期間が遵守されていなかった。
・除外基準に規定された既往歴、合併症の有無が未確認であった。
・除外基準に規定された臨床検査の規定範囲を超えていた。
・通常診療ではあまり実施しない検査項目や、同意前の過去の履歴に関する規定を見落としてしまうケースが多い。
★被験者保護の観点から、選択・除外基準の遵守は特に重要です。
★治験実施計画書の規定だけでなくその設定根拠にも十分ご配慮ください。
、
●●●● 記録の保存に関する事例 ●●●●
『診療録』が保存されていなかった。
『同意文書』が保存されていなかった。
『患者日誌』が保存されておらず、有効性評価、安全性評価項目の根拠が確認できなかった。
『○○スコアシート』が保存されておらず有効性の副次評価項目の根拠が確認できなかった。
『治験薬の投与時刻、採血時刻』及び検体処理が治験実施計画書に従って実施されたことを示す記録が確認できず、得られた動態解析結果の信頼性が担保できなかった。
・治験終了後(特に直接閲覧終了後)にあまり注意が払われず、紛失してしまうケースが見られる(画像フィルム、検査結果など)。
・医師法等では、診療録は5年間、その他の記録は3年間の保存義務が規定されているが最終来院から5年間受診がなか被験者の診療録等を廃棄している医療機関が見られる。
★前述しましたが、カルテ等の原資料が無いと、一発でアウトです。データ削除です。
くれぐれも原資料を廃棄されないように念を押しておいてください。
最近は病院も倒産する時代です。
もし閉院する連絡がきたら、とにかく治験に関連していそうな書類を確保して、外部倉庫などにしまっておいてください。
病院が統廃合する時にもカルテの紛失があるようですの、そのあたりの情報を素早くキャッチして、原資料を紛失しないように注意を促しましょう。
●●●● 症例報告書に関する事例 ●●●●
・症例報告書に記載された検査値が、原資料(検査報告書)と異なっていた。
・有害事象○○が発現し、△△が投与されていたが、症例報告書に有害事象及び併用薬として記載されていなかった。
・有害事象治療のための予定外来院による診察を受けていたが、症例報告書に当該有害事象が記載されていなかった。
●●●● 被験者の同意に関する事例 ●●●●
・治験実施計画書に規定された投与前検査を同意取得に先立って実施した。
・前治療薬のWash-outを同意取得に先立って実施した。
・同意文書の被験者日付欄を被験者本人が未記載であった。
・治験協力者が補足的な説明を行っていたにもかかわらず、同意文書に署名していなかった。
・説明文書を改訂したが、治験参加中の被験者に対して、文書による再同意を得ていなかった。また、新たな被験者の登録に際し、改訂前の説明文書が使用されていた。
以上、簡単ですが治験を実施する医療機関における留意点を見てきました。
総合機構からの指摘事項を見ると、僕が監査をやっていた15年前と何も変わっていません。
逆に言うと、上記に示したプロトコルからの逸脱事例さえ押さえれば総合機構からの指摘は激減します。
だから、モニターはこういう「過去の指摘事例」を把握して、自分の施設では絶対に発生させないようにしましょう。
それがモニターの腕の見せ所です。
ただし、治験はモニターだけでできるものではありません。
CRCの方や治験事務局、IRB事務局、薬剤部、治験責任医師・治験分担医師のご協力がないと治験が成立しません。
治験が成立しないということは、ますますドラッグラグが進むということです。
命をかけて治験に参加してくださった創薬ボランティアのためにも、その方のデータが利用できるようにしましょう。
くれぐれも「GCP違反のため、データを削除してください」とならないようにしましょう。
そんな事態になったら、命がけで治験に参加してくださった創薬ボランティアの方々に失礼です。
もう一度、繰り返しますが、先週と今週の「総合機構からの改善要求される事態、総合機構から指摘されそうな事態」を読み直して、明日からのモニタリングに(CRC活動に)、はたまた治験事務局業務に、IRB事務局の仕事に、そして、治験責任医師・治験分担医師の皆さんの業務に活かしてください。
大事なことは僕たちの意識を変えていくことです。
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