2011年12月03日

治験データ1個の重さ

治験によっては被験者が1000人以上になる場合もある。

そうなると、収集されるデータの数はどれ位になるのだろう?

臨床検査項目だけで20個近くある。

そこに有効性を測定するデータや、有害事象に関連するデータなど含まれるために、一人の被験者で100項目近くなる。

そうなると、被験者が千人だとすると、収集されるデータの数は10万個にになる。

それらのデータはパソコンに入力され解析される。

そして、モニターは解析結果を見る。

たとえば、有効性がプラセボに優位に勝ったとか、有害事象としてあげられる臨床検査値の以上は100人に出て、その中でも特にASTの上昇が20人に出た・・・・等など。

ここで、モニターは、被験者を「数」としてしか見ていないことが多い。

しかし、本当はその10万個のデータのひとつ一つは、被験者、いや創薬ボランティアの苦痛が伴っているデータなのだ。

「データ」と書いたが、本当は「痛み」「苦痛」「不快感」「悲しみ」等と言う感情や体調の一つひとつなのだ。

これを忘れてはいけない。



統計解析部が打ち出してきた解析結果の分厚い報告書の数値の羅列の向こうには創薬ボランティアがいることを忘れてはいけない。

僕たちは治験実施計画書などでよく「ウォッシュアウト」期間を設ける。

たとえば、僕が昔、担当していた「更年期障害」の治験ではホルモン剤の治療をしていた患者さんは1カ月以上のウォッシュアウトが必要だった。

ここで注意しなければいけないのだが、「ウォッシュアウト」の意味だ。

僕たちは単純に、「今までの治療薬の効果を断ち切るため」に休薬期間を設けると思うのだが、実はそれだけではない。

「ウォッシュアウト」期間に更年期障害の「症状(それも苦痛を伴う自覚症状)」をわざと出現されるのだ。


せっかく治療していて、快適に過ごしていた患者さんに、治療薬を休薬してもらい、また、ホットフラッシュ等の苦痛を味わせてしまうのが、ウォッシュアウトの目的のなのだ。



僕は自分でも患者パネルに登録している。

「高血圧」と「うつ病」だ。

先日、「うつ病」の治験で参加打診の電話が来た。

僕は電話で聞いた。「ウォッシュアウトはありますか?」「はい。現在、治療中の方はいったん、休薬してもらいます。」


僕は参加を拒否した。

せっかく、今は落ち着いている「うつ」の症状をまたぶり返されるのはとても、とても、とても、苦痛なのだ。

悪化すると、会社もいけなくなる。

だから、そうはなりたくなくて、治験参加の打診を断った。


この僕にしてそうなのだ。

治験の意義を重々、承知しているし、抗うつ薬の新薬を世の中に出せば、どれだけの患者さんが救われるかを百も承知している、僕が治験を断った。


でも、僕が昔、担当していた更年期障害では多くの患者さんが、ウォッシュアウトのあとで治験に参加してくださった。



10万個のデータは、ただの数値の集合ではなく、患者さんの苦痛の集合だということを再認識したい。

そして、モニターのせいで「治験実施計画書逸脱ですので、有効性のデータは削除します」なんてさせない!

そんなこと、患者さんに失礼だ。

命をはって治験に参加してくださった一個一個のデータの重みを感じながら、治験業務を遂行しよう。


そんな何十万人にものぼる患者さんの苦痛の上に、新薬があるのだ。


忘れないこと。








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posted by ホーライ at 01:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 治験の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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