2010年09月11日

■9月10日は「世界自殺予防デー」。『精神病治療薬の歴史』

9月10日は「世界自殺予防デー」だ。
   ↓
http://www.who.int/mediacentre/events/annual/world_suicide_prevention_day/en/index.html


自殺を甘く見てはいけない。
日本での2009年の交通事故死者は4914人。
一方で、2009年の自殺者数は3万2753人。1998年以来12年連続で年間3万人を超えた。
交通事故死の6.7倍である。


世界では、年間100万人近くの人々が自殺により亡くなっている。
これは40秒間に1人地球上のどこかで誰かが自殺しているという数字だ。
なお、死には至らなかった自殺未遂はその20倍の件数とのこと。


もちろん、自殺予防、自殺防止の対策も練られている。


●「いのちの電話」
   ↓
http://www.inochinodenwa.or.jp/04-jisatu.htm


●「自殺予防総合対策センター」
   ↓
http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/index.html


●WHO による自殺予防の手引き
   ↓
http://www8.cao.go.jp/souki/tebiki.pdf


僕の友人の中にも3人(2人の男性と1人の女性)の自殺者がいる。
そのうち、2人の男性とは、自殺する前日に僕は電話で彼らと話をしている。
それ以来、僕は、電話で変だな、と思ったら、「まさか、この人、自殺する気ではないか?」と考えるようにしている。

また、自殺目的で睡眠薬を大量に飲んだあとで、携帯電話に電話をもらったこともある。(その時、僕は家族でもんじゃ焼きを食べていた。)
この時は、その人の近くの消防署に電話して、救急病院にその人を運んでもらい、胃洗浄などをして、助かった(と、翌日、その消防署に電話で聞いた)。

自殺する理由はいろいろだが、『うつ病』が悪化して自殺される人も多い。
今では、抗うつ薬として色々といい薬が出ているので、うつ病で自殺する人を減らしているとは思うのだが。



■向精神薬の開発の歴史「レセルピン」の場合


ところで、抗うつ薬や統合失調症に効果のある向精神薬は、どのような歴史で開発されてきたのだろう?


(以下、参考図書『薬の話』山崎幹夫著、中公新書)
          ↓
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4121010485/horaihonoyomu-22


向精神薬が出るまで、精神疾患に対しては「薬なんて効くはずないよ」というのが一般的な見解だった。
統合失調症については、昔は患者はまず隔離され、世間の眼から隠ぺいされた(今でも、そういう意識が皆無とは言えない)。

治療としては、全身に痙攣をおこさせるための電気ショックや昏睡状態をひきおこすインスリン・ショックなどが行われていた。


一方で1952年、スイスのチバ社(現在、ノバルティス)の研究者が『印度蛇木(インドジャボク)』の根からレセルピンを抽出・単離した。
もともと、インドジャボクは古代の記録では、不眠症や高血圧、それに精神に異常をきたしたときにも用いられていたことが記されていた。

そのチバ社は最初から精神病治療薬としての可能性を探していたわけではない。むしろ、高血圧の薬として開発を進めていた。
1953年、アメリカの医師ネサン・クラインが『ニューヨーク・タイムズ』の記事に、インドの精神科医がインドジャボクを使って精神病患者の治療に効果があったことを見つけた。
この記事に興味を持ったクラインはレセルピンには不安・強迫・抑制等の精神症状を改善することを報告した。

ちなみに日本でレセルピンの治験が正式に開始されたのは1954年なので、結構速かった。(ドラッグラグとしては1年程度)
その結果は1955年の第52回日本精神神経学会で発表された。(同じころにフランスで開発されたクロルプロマジンとの比較試験だった。)

かくして、2000年以上も昔からインドに伝えられた奇妙な形をした薬草の根は、薬では絶対に治らないと信じられ、軽視と虐待にしいたげられた精神病患者を鉄格子の中から救い出すことになった。



■向精神薬の開発の歴史「クロルプロマジン」の場合

レセルピンの発見と同じ頃、フランスで開発され統合失調症の代表的治療薬として登場したのが、クロルプロマジンである。
このクロルプロマジンの起源は植物ではない。決して偶然に発見されたというのはなく、着実はデザインの元に合成され開発の途をたどったのだが、その過程は必ずしも平たんではなかった。

クロルプロマジンの原型になったフェノチアジンは1883年にドイツで合成された。
当時から、メチレンブルーなどの色素の合成原料としても利用されている。
メチレンブルーはパウル・エーリッヒによって殺菌作用を有することが認められ、化学療法の先駆となった化合物でもある。
そこで、このフェノチアジンを原型とする多くの化合物が化学療法の開発を目指すアメリカやフランスの製薬会社の研究所で合成された。

フランスのローヌ・プーラン(現在、サノフィ・アベンティス)研究所でも同じような作業は行われたいたのだが、満足な結果は得られない。
しかし、その作業の中で面白い現象を見つけた。化合物フェネタジンに強力な抗ヒスタミン作用が認められた。
数か月後には、さらに強力な抗ヒスタミン作用を持つ化合物が得られた。この薬には眠気をもたらす副作用(つまり中枢神経に対する作用)があるほかに、乗り物酔いを防ぐ作用があることが分かったが、臨床試験的には失敗した。

ローヌ・プーラン研究所は抗ヒスタミン路線を捨て、中枢神経への作用性を強調する化合物の探索にとりかかる。
その結果、発見されたのが、クロルプロマジンであった。

電気ショックやインスリン・ショックによる療法を受けながら、あまり改善の兆しのみえなかった統合失調症の患者にこの薬を投与し、素晴らしい効果が見られることを発見した。

(ちなみに、このローヌ・プーラン社の日本支社で僕はモニターの道を歩み始めた。)



■うつ病に効果を持つ薬の発見「イミプラミン」の場合

うつ病に効く薬として1957年に登場したイミプラミンは、すでに1948にはスイスのガイギー社(現在、ノバルティス)で40種以上の類似化合物とともに合成された。
その目的もやはり抗ヒスタミン薬の開発であった。
ところが、ガイギー社と、チューリッヒ大学の医師らが、フランスで進行していたクロルプロマジンの研究結果を知ったのは、1953年の11月になってから。
そこで、彼らは抗ヒスタミン薬としての開発路線を見直し、精神疾患に対する薬の作用を追うことにした。

結果は大変、興味があることに、イミプラミンは興奮している患者を鎮静させることはできなかったが、それまでまったく薬では歯が立たなかった内因性のうつ病に対して、特異的な効果を有することを示した。
その結果は1957年のスイス医学雑誌に報告された。
以来、イミプラミンは抗うつ薬としてもっとも頻繁に処方される薬となる。



・・・・・・というように、それまで「鉄格子」の中にいた患者やまじないの範疇だった精神疾患に対しても、科学の光をあてることが1950年代頃から始まった。
まさに、薬の歴史に残る、ブレイクスルーだ。


多くの科学者の努力と偶然による発見をもとに数千の化合物が試されてきた。

さらに抗うつ病に対しては、今ではSSRI等と言う新しい作用機序の薬でも出てきた。

しかし、驚いたことに、なぜ抗うつ薬が効くのかは、明確に分かっていない。
それでも、効いているので、僕たちは使っている。

抗精神病薬の出現は、その意味ではまさに医療上の一大革命をもたらしたと言えるが、“心を動かす”薬のメカニズムはまだ不明の点が多いことから考えても、精神病を治療する医薬品の開発と利用にはまだ改善の余地がある。

自殺を減らそう。
自殺をしない、させない。


「精神薬理学の英雄的な時代、画期的な発見の続く時代はすでに過ぎたが、なすべきことは山積している。」(クロルプロマジンが統合失調症に有効であることを発見したドニケルの言葉。)




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